モニタリングにはいくつかの目的があります。なかでも一番わかりやすいのが、これまで解説してきたケアプランに沿ったモニタリングです。ここでは、「環境」について取り上げます。まず、環境とはどんなことを意味しているのか、またそのモニタリングがどうして必要なのかを、鈴木さんと一緒に考えていきましょう。
【著者:吉田光子(郡山ソーシャルワーカーズオフィス)】
吉田:ケアプランをもとにしたモニタリングから一歩踏み出し、次に「環境」についてのモニタリングも考えてみましょう。これも大事なんですよ。
鈴木:環境ですか・・・(納得できていない様子)。
吉田:例えば、Kさんの奥さんの膝の状態が悪化して、歩行できないくらいに痛みが出たとしたら、Kさんの生活に影響は出ませんか?
鈴木:出ると思います。
吉田:奥さんは、Kさんの環境の一部なんですよ。
鈴木:あ、なるほど! 環境という言葉を聞いた時に、気候とか、地球温暖化とかをイメージしてしまったので、モニタリングとどうつながるのか、ピンと来ませんでした(笑)。
吉田:鈴木さんはICF(国際生活機能分類)の図を覚えていますか? 「個人因子」と「環境因子」という言葉が並んでいたでしょう。同じ意味での環境です。
鈴木:はい、覚えています。ICFは確か、いろいろな部分が互いに影響を与えあっていることを説明しているんですよね。
吉田:そうです。私たちの生活は、いろんなものに影響を受けますよね。そのなかには環境も含まれるわけです。
鈴木:う〜ん、環境といってもぼんやりしたイメージしか浮かびません。
吉田:そうですか。ではいくつかわかりやすい部分から考えていきましょう。
Kさんがいつも生活している場所は物理的環境と言えます。例えば、居室が洋室か和室かなど、はじめのアセスメントの際に確認しましたよね。また、家族構成やその関係性についても確認しましたよね。それらは人的環境となり、その方に影響を与えます。また、どんな地域で暮らしているのか、どんな役割を持っているかなどは社会的環境といえます。
わかりやすく、こんなふうに考えてはいかがでしょう。環境とは本人に影響を与える可能性があるもの、である。
鈴木:・・・ものすごく広いような気がしますが。
吉田:(笑いながら)影響を与える、ってところがミソです。
鈴木:はあ・・・。
吉田:利用者の生活には、今は特に影響がなくても、ある時期においては影響を与える要素がたくさんあるので、アセスメントシートの項目のように捉えて、一つひとつ数えてしまうとものすごく膨大なものになってしまいます。だから、まずは本人を中心にして、本人に影響を与えるものは何かと考えていくわけです。
鈴木:本人に、ですか?
吉田:はい、大枠のところはすでに援助を開始する際に捉えていらっしゃいます。それをもとにしながら、変化に気づこうとする姿勢と、その影響を見積もることが大事になってくるのです。だからモニタリングの必要性があるのです。
鈴木:大事そうだとは思いますが、どうしたらよいかはやっぱりわかりません。
吉田:繰り返しになりますが、環境のモニタリングには、最初に把握したアセスメントが重要なのです。
鈴木:アセスメントしたことが、ですか?
吉田:そうです。私たちの生活は常にちょっとした変化がつきものですよね。私たちにとっては大したことでなくても、利用者には大きな影響を及ぼしたり、気づかなかったために対応が遅れてしまうこともあります。だから、アセスメントしたことのなかで、Kさんにとって影響力の大きなものを選別し、その変化に注意することと、一般的に利用者に影響を与えやすい事柄について、Kさんの場合に変化はないかを注意するということです。
鈴木:つまり、奥さんが病気などで倒れてしまったら、Kさんがこのまま家で暮らせなくなるかもしれないということですね。
吉田:そういうことです。
吉田:そんな事態になっては大変なので、どういうことが起こりうるかを検討しておくことが大切なんです。そのためには、先ほどお話した環境をいくつかのキーワードごとに整理しておき、Kさんの生活に大きな影響を与えるもので変化しそうなことをあらかじめ考えておくのです。これはケアプランに関するモニタリング同様、望ましい影響と悪影響の両方について考えておきましょう。
鈴木:まず、人的環境から言えば、奥さんや息子さんご一家の変化と影響ですね。奥さんは、無理をしてお疲れにならないか心配です。そうするとモニタリングすべきことは、奥さんの健康状態や、Kさんのお世話で何を実際になさっているかなどで、リスクとしては、体調悪化による心労や奥さんが無用の手助けをする可能性ですね。
息子さん一家では、お孫さんが進学する時に、喜ばれると同時に家を離れたらきっとがっかりなさいます。
吉田:何をすればよいかわかってきたようですね。
鈴木:はい(笑)。
吉田:ほかに考えられることはありますか?
鈴木:あの、本人の状態についてはどうなんですか?
吉田:たぶん、こんなことをイメージしての質問ですね。Kさんが今よりも身体状況が改善したら、介助の仕方も変わるし、必要な物品も変化すると。
鈴木:そうなんです。あ、そうか。だから環境は本人に影響を与えるし、本人に変化があればそれに合わせて環境を変えていかなければならないんだ! だから環境のモニタリングが必要なんですね!
吉田:そうです。よい例が、入浴の場面です。自宅の浴室という環境は同じですが、今のKさんに合わせて吟味している入浴用の介護用品が、今後不要になる場面もあるかもしれませんし、反対に別な用具も必要になるかもしれません。今のKさんにとってベストの環境であっても、これからずっとベストとは限りませんよね。だからこそ、環境のモニタリングが重要になってくるのです。
鈴木:わかりました。もう一度アセスメントを見直して、モニタリングしておく環境の項目を洗い出してみたいと思います。
本人自身の変化も含め「環境」に目を配り、変化の有無とそれが与える影響を考えておくことはとても重要です。例えば、一人暮らしの方ととても世話好きな妻と同居する方が、同じ身体状況で退院したとして、3か月後のこの二人はまったく同じ生活状況でしょうか? 一人暮らしの方は必要に迫られ、身体と折り合いをつけながらいろいろなことができるようになっていることでしょう。一方、同居されている方は妻の介護を受け、まだ退院当初とあまり変わらない生活をしているかもしれません。
また、自分と同じように介護を受けている方を知っている人と、周囲に介護を必要とする方がまったくいなかった人との間では、自分自身の状況を受け入れたり、目標を持つことに差異が出てくるのではないでしょうか? これは、過去の環境が影響している例と考えることもできます。
熱心に通所リハビリに通っていた方が、休みがちになったとします。本人の身体状況にも家族を含めた環境にも変化はなかったとしたら、皆さんは、理由はどこにあると考えますか? 通所リハビリに原因を探しますか? それが正解かもしれません。しかし、こんな可能性も忘れないでください。熱心に取り組んだのに、「変化がない」のです。それは意欲を失わせる原因になっているかもしれません。
先ほど、ICFについても言及しましたが、環境が変化をもたらす鍵になることもあります。現在だけにとどまらず、過去からの影響や、これからどうなるかといった点にも配慮しながら、環境に対するモニタリングをしていただきたいと思います。