長崎県諫早市・社会福祉法人南高愛隣会
障害者が誇りをもつ生活を支援
福祉医療機構では、地域の福祉医療基盤の整備を支援するため、有利な条件での融資を行っています。今回は、その融資制度を利用された長崎県諫早市の社会福祉法人南高愛隣会を取りあげます。同法人は、障害者が誇りをもてる生活を支援するため、生活支援をはじめ、居住支援、農福連携を推進した就労支援、更生保護などを実践しています。その取り組みについて取材しました。
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時代や制度の変化に対応した障害福祉サービスを展開
長崎県諫早市にある社会福祉法人南高愛隣会(理事長:田島光浩氏)は、「生きる誇りへの、挑戦。」という法人理念のもと、包括的な障害福祉サービスを提供してきた。
法人設立は昭和52年10月で、知的障害者の支援からスタートし、障害者自立支援法の施行を機に、発達障害、精神障害など多様な障害のある人たちへの支援に取り組んでおり、「普通の場所で普通の暮らし」をしたいという障害者の願いを実現するため、時代や制度の変化に対応した事業展開を行っている。
障害者の生活を支える支援について、専務理事の酒井龍彦氏は次のように語る。
「設立当時は、障害のある人たちは入所施設で一生を過ごすことが主流でしたが、先代の理事長は施設は社会的自立を目指すために機能していくものであるという熱い志をもち、5年ごとに整備計画を定め、社会復帰や地域移行に向けた自立訓練の充実、受け皿を地域につくっていくことに取り組んできました」(以下、「 」内は酒井専務理事の説明)。
現在、同法人では、日中支援、生活支援、相談支援、居宅支援、罪に問われた障害者の支援、医療支援の6つのサービスを中心に、長崎県内で47事業所・69事業を運営している。平成30年には、諫早市内の事業所を2カ所の拠点に集約し、生活介護、就労継続支援A・B型事業所、グループホーム、放課後デイサービス、児童発達支援等を併設する「LOCAL STATION FLAT」と、長崎障害者就業・生活支援センター、就労移行支援、自立訓練・生活支援、長崎能力開発センター(分室)等を併設した「Career Design Support AeR」を開設している。
「拠点化を行った目的として、それまでは小規模な事業所が地域に点在し、法人の方針などの周知・浸透にバラつきがあったことから、統一した周知徹底とともに相互補完、相互牽制ができる体制づくりを目指しました。『LOCAL STATION FLAT』は、地域の人たちが気軽に通える場所をコンセプトとし、『Career Design Support AeR』は、障害者の就労支援に特化した拠点として機能を分けています」。
県内8カ所で運営する生活介護事業は、介護が必要な障害者に対し、日常生活を楽しみながら活動するため、乗馬療法や文化・芸術活動、さまざまな社会体験活動など、多様なメニューを提供している。
乗馬療法は、主に雲仙・諫早・長崎地区で実施しており、情操教育として利用者は馬の飼育から関わり、馬と触れあうことで情緒の安定につながったり、乗馬をすることで座位が安定するといった効果があるという。
高品質な製品づくりに取り組む
就労支援では、就労継続支援A型事業所を4カ所、B型事業所を7カ所運営するほか、就労移行支援、自立訓練、職業能力開発訓練などを実施し、利用者の障害特性や一人ひとりの個性にあわせた支援を提供している。 就労継続支援A型事業所の「ブルースカイ」と「味彩花」では、グループホームや各事業所に食事を届けるディナーサービス、弁当の配達、独居高齢者への安否確認を兼ねた配食サービスを行い、「コロニーエンタープライズ」では、国家資格である製麺技能士5人の指導のもと、地場産業である島原手延べ素麺やうどんなどの製麺づくりを行っている。 この3事業所では、衛生管理の手法である「総合衛生管理HACCP認証(国際基準)」を取得し、衛生管理とともに高品質な製品づくりに取り組んでいるという。 さらに、同法人では和太鼓の演奏活動を就労継続支援A型事業として実施していることも特色となっている。 「『瑞宝太鼓』は、昭和62年に運営する長崎能力開発センターという職業訓練を行う施設で知的障害者の余暇サークルとして発足し、利用者が楽しみながら練習と演奏活動を続けてきましたが、本人たちから『プロになりたい』という声が上がり、その願いをかなえるために、平成12年に応募者のなかから4人の団員で構成するプロの和太鼓集団を結成しました。その後、人数も増え、就労継続支援A型事業としてスタートしました。現在、団員は15人となり、日本全国や世界を舞台に年間100回を超える公演や講習活動を行っています」。 趣味から始まった活動が仕事となり、障害のある人たちにとって夢と可能性が広がる活動となっているという。
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▲▼ 障害者の地域生活を支えるため、県内に125棟のグループホームを設置し、軽度から重度の障害者や夫婦で利用できるタイプなど、障害の程度やニーズに対応した整備を行っている | ▲ 平成30年に開設した諫早拠点事業所「LOCAL STATION FLAT」。法人本部とともに4事業所を併設 |
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▲ 生活介護では乗馬療法を実施し、情操教育やアニマルセラピーとしての効果につなげている |
農福連携事業を推進
就労継続支援B型事業では、委託を受けた各種作業をはじめ、清掃業務などの施設外就労、農作物の栽培を実施しており、農福連携事業を推進している。 「農福連携は、農業が盛んな雲仙地区を中心に法人の設立当初から取り組んでおり、農繁期に農家から依頼を受けて農作業を手伝うことで、障害者への理解も深まっていました。現在は農家の高齢化、人手不足もあり、40軒ほどの農家から依頼があり、『農援隊』というかたちで利用者と職員を派遣しています。農家からも評価を受け、高いニーズがあります」。 そのほか、農福連携では、企業や行政と連携し、長崎県のブランド地鶏「対馬地どり」や和牛の飼育、アスパラガスのハウス栽培などに力を入れている。アスパラガスの農地面積は5反(約5000u)あり、年間約3トンのアスパラガスを農協に出荷しており、農家が栽培方法の見学に訪れるほど高い品質となっている。 同法人が実践する農福連携の取り組みは、「ノウフク・アワード2020」で審査員特別賞を受賞 しているほか、「対馬地どり」、「島原手延べ素麺」、B型事業所で製造する「久遠チョコレート」などは、ふるさと納税の対象商品にも選ばれているという。
全国平均を大幅に上回る給与・工賃を支給
これらの就労支援の取り組みにより、就労継続支援A型の平均給与額は12万3000円(令和2年度の全国平均7万9625円)、B型事業所の平均工賃は2万5000円(同1万5776円)と、全国平均を大幅に上回っている。
「就労支援では、福祉だからという甘えや妥協を許さず、本物の商品づくりを追求してきたことにより、高品質の商品を生み出すことで利用者が仕事に誇りをもって生活することにつながっています。利用者のもつ能力を最大限に発揮できる環境を提供していくことが基本的な考え方ですが、それに向けて長崎能力開発センターなどの訓練施設で基礎をしっかりと身につけた人たちが核となって働いており、訓練から就業までの一貫した支援を提供していることが強みとなっています」。
そのほかにも障害者雇用の取り組みでは、平成7年にプリマハムをはじめとする食品会社、長崎県、雲仙市との共同出資により、第3セクター・重度障がい者多数雇用事業所「プリマルーケ株式会社」を設立。ハムなどの加工食品の生産を行い、障害者と健常者がともに働くノーマライゼーションを実践しており、同社社員の約3割にあたる18人が障害者雇用である。
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▲ 就労継続A型事業所「コロニーエンタープライズ」では、高品質な島原手延べ素麺を製造 | ▲▼ 就労支援で「対馬地どり」の飼育と、アスパラガスのハウス栽培に取り組む利用者の様子 |
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▲ 余暇サークルとして発足した瑞宝太鼓の演奏活動は、プロとして就労継続A型事業で実施しており、さまざまなイベントから公演依頼を受けている |
障害程度やニーズに応じたグループホームを整備
生活支援の取り組みでは、障害者の生活を支えるために、共同生活援助(グループホーム)の運営を平成元年の制度化される以前からモデル的に開始してきた。現在、県内に125棟(総定員数397人)のグループホームを整備しており、重度障害者向けの夜勤型、軽度障害者向けの単身型、夫婦で利用できるタイプなど、障害の程度やさまざまなニーズに対応している。
また、障害者の普通の暮らしや生きがいづくりに向けた取り組みとして、結婚推進室「ぶ〜け」を立ち上げ、出会いや婚活のサポート、夫婦・パートナーの応援、子育てサポートを行っていることも特色となっている。
「『ぶ〜け』は、利用者に将来の夢を聞いたところ、『結婚をしたい』という声がいちばん多く、本
人の願いと普通の暮らしをかなえるために立ち上げました。これまで24組ほどの利用者が結婚に結びつき、子どものいる夫婦も少なくありません。結婚してパートナーと生活することで、柔和な表情になり、それまで問題行動があった人の行動が落ち着いたり、仕事に対する責任感をもつなど、人として変化、成長につながっていることを実感しています」。
罪に問われた障害者や高齢者を支援
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▲ 平成21年に社会福祉法人では全国初となる更生保護施設「雲仙・虹」を開設。障害や高齢により自立が困難な矯正施設出所者の支援に取り組んでいる |
同法人は、罪に問われた障害者や高齢者が地域で暮らしていけるための支援に取り組んでいる。
「私どもが参加した、厚生労働省の厚生労働科学研究『罪を犯した障がい者の地域生活支援に関する研究』(平成18〜20年度)では、刑務所などの矯正施設のなかには多くの障害者、高齢者が存在し、退所後の支援が不十分であることから短期間で犯罪を繰り返していることが明らかになりました。司法から福祉へつなぐ受け皿の必要性を感じたことから、平成21年4月に社会福祉法人では全国初となる更生保護施設『雲仙・虹』を開設し、これまでの福祉事業で培ったノウハウを活かしながら、障害や高齢によって自立が困難な矯正施設出所者の社会復帰へ向けた支援を行っています」。
さらに、平成21年7月に地域生活定着促進事業が制度化されているが、同法人は全国に先駆け、平成21年1月に「長崎県地域生活定着支援センター」をモデル的に開設している。司法・福祉・医療など、さまざまな領域をつなぐ拠点として、矯正施設を退所した障害者・高齢者に対して、帰住先や福祉サービス等の利用調整を行うとともに、帰住後も関係機関と協働して伴走型支援を行っている。
全国の刑務所等の出所者の再犯率は48%であるのに対し、同センターを開設して10年間の帰住者の再犯率は9〜10%にとどまり、「雲仙・虹」の退所者も同様の水準となっているという。
令和元年には長崎刑務所と連携強化の包括協定を締結し、出所前の受刑者が「雲仙・虹」や就労支援事業所を見学すること、刑務官の福祉の現場体験を受け入れるなど、新たな協働プログラムに取り組んでいるという。
障害者が誇りをもてる生活を支援する同法人の今後の取り組みが期待される。
社会福祉法人南高愛隣会
専務理事 酒井 龍彦氏

そのため、昨年度から法人本部内に「サービス推進課」を立ち上げ、各事業所のサービスの質を管理するとともに職員の研修制度をつくり、新人研修から階層別、役職者・管理者の研修など、さまざまな研修を企画し、実施しています。
一方、人材確保については、今年度は20人を超える新卒者を採用できています。その要因として当法人は障害福祉サービスにとどまらず、更生保護や触法に関する支援、結婚支援(ぶ〜け)、文化芸術等に取り組んでいることから、これらの分野の支援に携わりたいという高い意識をもった人や他県からの応募も多くなっています。
<< 施設概要 >>令和4年1月現在
理事長 | 田島 光浩 | 法人開設 | 昭和52年10月 |
職員数 | 606人 | ||
法人施設・事業 | 生活介護8カ所、就労継続支援A型4カ所、就労継続支援B型7カ所、就労移行支援、就労定着支援、自立訓練(生活訓練)3カ所、共同生活援助12カ所、宿泊型自立訓練、短期入所6カ所、放課後等デイサービス3カ所、児童発達支援2カ所、訪問看護、障害者就業・生活支援センター、更生保護施設、地域生活定着支援センター等 | ||
住所 | 〒854−0001 長崎県諫早市福田町357番地15 | ||
TEL | 0957−24−3600 | FAX | 0957−47−5033 |
URL | http://www.airinkai.or.jp/ |
■ この記事は月刊誌「WAM」2022年3月号に掲載されたものを一部改変して掲載しています。
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