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社会福祉法人善光会(東京都大田区)の取り組み
高齢・介護

東京都大田区・社会福祉法人善光会

社会福祉法人善光会(東京都大田区)の取り組み

 社会福祉法人善光会では、平成21年のロボットスーツHAL ® (福祉用)に始まり、現在では約20種類の介護ロボットを導入・活用している。また、メーカー製品を利用するだけでなく、介護ロボット・人工知能研究室を発足させて法人での独自開発にも取り組んでいる。ロボットの活用状況や効果等についてうかがった。

※この記事は月刊誌「WAM」平成29年8月号に掲載されたものです。

平成21年から介護ロボットを導入、研究室も発足


 平成17年に設立された社会福祉法人善光会は、東京都大田区を中心に6拠点で特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、障害者支援施設、ショートステイ、デイサービス、認知症対応型グループホーム等を運営している法人である。
 同法人では、「オペレーションの模範となる」、「行く末を担う先導者となる」という2つの理念のもと、新しいこと・ものを取り入れることで介護業界を内部からよくしていきたい、という指針で運営している。介護ロボットの導入もその一つであり、最初の導入は、平成21年のロボットスーツHAL®(福祉用/ CYBERDYNE 株式会社)であった。なお、HAL® には介護者を支援するタイプと患者・利用者本人が装着するものがあるが、福祉用は本人が装着するタイプである。
 同法人の介護ロボット・人工知能研究室室長の徳山創氏は次のように語る。
 「当時はまだHAL® も医療機関に少し入り始めた段階で、主に脳梗塞後のリハビリ用でした。介護施設では導入されていなかったのですが、私たちの施設では慢性期の方々の機能訓練も行っていますので、将来性を感じ、当時の役員が導入しました。ただ、導入したといっても初めてですからマニュアルもなく、製品だけが届いた状態でした。このため、メーカーと毎週ミーティングを行い、現場では利用者に装着してもらってデータをとり、その結果をフィードバック、製品を改善してもらう―ということを繰り返し、現在も引き続き使用している、という状況です。なお、その後、職員が装着するHAL®(介護支用)も導入しています」(以下、「 」内は徳山氏)。
 また、メーカー製品を利用するだけでなく、独自開発も行っている。これまでにコミュニケーションロボット、腰痛予防体操ロボットのほか、iPhone用アプリ「介護マニュアル」、キネクト(カメラやセンサーで人の動きを認識する機器/マイクロソフト社)による移乗トレーニングシステム、歩行測定プログラムなどの開発を行っている。さらに、メーカーだけでなく大学等との共同研究、関係省庁主導プロジェクトにも積極的に協力。並行して平成25年に介護ロボット研究室を設置し、平成28年には介護ロボット・人工知能研究室として改組している。


現在は約20種類を利用


 ▲ロボットスーツHAL® をはじめ、約20 種類のロボットを導入している

 同法人では、これまでに試験的導入も含め40種類ほどのロボットを導入し、現在は約20種類を使用している。
 「ただし、当法人では介護ロボットの定義をやや広く捉えています。直接介護(食事・排泄・入浴)に関わる部分だけでなく、間接介護である見守りや掃除等を行う機器も含めています。最近の介護ロボットのなかで、機能の向上が著しいのは、見守りセンサーですね。登場したときは、利用者がベッドから起き上がると音が鳴る、といったやや原始的なものでしたが、最近は起き上がろうとしてベッド上でもぞもぞと動いた時点ですぐに通知されるなど、現場の求めるスピード感に対応できるものが増えてきています。経済産業省の旗振りもあったのかと思いますが、開発競争が進み、品質も向上していくのはユーザー側としては大変ありがたいですね。もちろん欠点がまったくないというわけではありませんが、主に夜間帯の見守りに関しては、人員配置基準についての国の議論にもつながっていくものになると思います。現場からも『欲しい』という意見を多く受けています。介護ロボットについては、現状では法人の負担による導入なので、今後、介護報酬での評価につながることを期待しています」。
 同法人がロボット導入の際に心がけていることは、新しい機器や手法に関心が高く、現場も熟知しているユニットリーダーがいるところでの試験的導入からスタートすることだという。


 ▲NTT東日本とヴィストン株式会社等が共同開発したコミュニケーションロボット Sota は、発売前の実証に協力。発売と同時にデイサービスに導入している

 「通常業務で忙しい現場に新たな試みをやってもらおうとしても、『忙しいのでそれはできません』と言われることは少なくありません。当法人の全ベッド数は約500になりますが、2カ所の特養のそれぞれ1ユニットを、介護ロボット導入の”重点特区“としています。まずここで導入して慣らし、よければ本格導入に向けてノウハウを蓄積してから横展開していく、という形にしています。また逆に、現場から『こういうことで困っているんですが、対応できる機器はありますか』と相談をもちかけてもらい、こちらで機器を探して試験導入〜本格導入、適当なものがなければ自法人で製作できるか検討するということも行う、ボトムアップとトップダウンが融合した体制となっています。導入を始めた当初はなかなかスムーズにいきませんでしたが、今ではロボットをうまく利用しつつ、現場が使いづらいものについてははっきり『ダメだった』と言ってもらえます。機器そのものの問題だけでなく、利用者が機器の利用に消極的な場合などもありますから、さまざまな情報をあげてもらい、より活用しやすい環境を作るようにもしています。これを繰り返しながら、機器の導入やロボット操作に消極的な職員には、粘り強く意義を説明していきます」。


全ユニットでの導入を目指して


 今後の方針としては、特養の全ユニットのロボット化を目指しているという。
 「人の手による介護を否定するものではないのですが、やはり人材確保が厳しい状況のなか、可能な部分はロボットで省力化を進めていく必要があると考えています。もちろん、利用者の状態像は日々変わりますし、それによって適切な機器は異なりますので、それぞれの方・それぞれの状態にあうものを活用していきたいと考えています」。
 介護職員の間接的な仕事を減らし、本来やるべき業務に時間をかけられるようにすることを目指した同法人の取り組みは、今後も注目される。

ロボット導入にはチームでの取り組みを

社会福祉法人善光会 介護ロボット・人工知能研究室 室長 徳山 創氏

 私はもともとシステムエンジニアで、当法人の事業拡大に伴いシステムインフラの整備が必要だったときに入職しました。他の法人ではあまりない立場かと思いますが、ロボット導入に関しては、現場とメーカーの間に立って、それぞれの本音を受け止めながらコミュニケーションをはかることができます。ロボット導入をしようとするときは、現場とメーカーが直接やりとりする場合が一般的に多いと思うのですが、違う組織なのでメーカーは「もうひと踏ん張りしてみてよ」とは言いにくいですし、現場も「これ、全然ダメだな」と思っても、遠慮があり「大変よかったんですけれど、うちには該当する利用者がいなくて」といった回答になりがちです。両者の間に立つ職員がいない場合には、施設長やリーダー等を含めた検討チームを作り、チーム全体でそれぞれを鼓舞できるような体制にするとよいと思います。それができると、ロボット導入が進むようになるでしょう。
 ただ、現場の現実として機械の操作を覚える余裕がないことは事実ですので、家庭用掃除ロボットのように1つのボタンを押せば動くというような、誰でもわかりやすい機器の開発をメーカーには求めていきたいと考えています。

■ この記事は月刊誌「WAM」平成29年8月号に掲載されたものを掲載しています。
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