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山形県酒田市・地域医療連携推進法人日本海ヘルスケアネット

持続可能な医療と介護の提供体制を目指して

 山形県酒田市にある地域医療連携推進法人日本海ヘルスケアネットは、少子高齢化や過疎化が急速に進む地域において、山形県が推進する地域医療構想の実現を図り、持続可能な医療・介護の提供体制の構築を目指し、平成30年4月に設立しています。設立に至るまでの経緯や連携推進業務の取り組みについて取材しました。


令和4年1月現在で30法人が認定


 平成29年4月にスタートした地域医療連携推進法人制度は、医療機関相互間の機能の分担および業務の連携推進を図り、質の高い医療を効率的に提供するとともに、介護との連携も図りながら、それぞれの地域において必要な医療を提供できる体制を構築することを目的とし、地域医療構想の達成、地域包括ケアシステムの構築に資するための選択肢として創設された。令和4年1月現在、30法人が認定されている。
 山形県酒田市にある地域医療連携推進法人日本海ヘルスケアネットは、庄内地域において急速に進む少子高齢化、過疎化の状況のなか、山形県が推進する地域医療構想の実現を図るため、地域包括ケアシステムのモデルを構築し、医療・介護・福祉等に切れ目のないサービスを将来にわたって安定的に提供すること目指して、平成30年4月に設立された。
 日本海ヘルスケアネットの中核である地方独立行政法人山形県・酒田市病院機構は、平成20年4月に山形県立日本海病院と、酒田市立酒田病院の2つの急性期病院が統合・再編して発足。新たに病院機能の分化・集約により急性期の中核を担う日本海総合病院(634床)と、療養・回復期を担う日本海酒田リハビリテーション病院(114床)として開設した。
 山形県は、公的病院の病床割合が日本でトップクラスにあり、庄内二次医療圏における公的病院の病床比率は65・8%を占めるなか、県立と市立の2病院が統合再編した事例は少なく、注目された。


持続可能な医療・介護提供体制の構築を目指す


 地域医療連携推進法人の設立経緯について、日本海ヘルスケアネット理事長、山形県・酒田市病院機構理事長の栗谷義樹氏は次のように説明する。
 「当法人のある庄内二次医療圏の人口は、平成30年現在で約27万人、高齢化率33%となり、令和22(2040)年には、人口が20万人を割り込み、高齢化率は44%まで上昇することが予測されています。医療需要は、平成27年からすでに減少段階に入っており、令和22年には2割以上が縮小し、介護需要についても令和12年にピークを迎えたあとは、同様の経過をたどることが推計されています。過疎化に伴う医療需要の縮小により、病院単体の経営管理は成立しなくなり、医療・介護の担い手の確保が困難になると考え、平成27年頃から地区の医師会と病院長などで将来予測について議論してきました。そのなかで創設された地域医療連携推進法人制度を活用した新法人を設立し、持続可能なサービス提供体制を構築するとともに、提供する医療介護の費用を地域全体で連結管理して最適化を目指すことを当機構から提案しました。持続可能なサービス提供体制の構築に向けた病院の再編統合の延長として捉えていますが、統合再編後は劇的な経営改善につながり、内部留保もかなり積み重なっていたため、地域に還元させたいという思いもありました」(以下、「 」内は栗谷氏の説明)。
 法人設立に至るまでの経過としては、平成28年4月に病院機構をはじめ、地区医師会、医療法人、社会福祉法人など5法人による勉強会を開催し、制度説明や共同事業、参加意向などの確認を行った。その後、実務者会議や設立協議会(以降5回開催)を経て、平成30年1月に基本合意書を締結して日本海ヘルスケアネットを設立。同年4月に地域医療連携推進法人として認定された。


外観 病院概要
日本ヘルスケアネットの中核を担う山形県・酒田市病院機構は、平成20年4月に公立2病院を再編統合して発足。新たに日本海総合病院(写真左)と日本海酒田リハビリテーション病院を開設した。


10法人が参加する地域医療連携推進法人を設立 


 現在、日本海ヘルスケアネットには、病院機構を中核に、地区医師会、歯科医師会、薬剤師会の三師会、医療法人と社会福祉法人が3法人ずつの計10法人が参加している(図)。地区の三師会がすべて参加していることや、精神科専門病院が参加することは全国初であったという。
 「三師会がそろって参加した背景としては、私は地区医師会の会長を務めていた経験があり、このままでは経営環境が厳しくなるという認識を共有できていたことが大きかったと思います。精神科専門病院については、高齢化が進行するなか、認知症対応は大きな課題であることから精神科のエキスパートは不可欠だと考え、私のほうから声をかけて参加していただきました。また、参加法人に対しては、財務諸表をすべて提出することや、公的セクターと民間が協働して、ある程度地域の事業を独占・寡占することになるため、医療法人には出資持分を原則放棄してもらうことを求めました。地域の実情や地域医療連携推進法人の必要性を理解してもらい、応じていただけたことが分岐点になったと思います」


<図>日本海ヘルスケアネットイメージ

日本海ヘルスケアネットイメージ

地域の実情に応じた連携推進業務に取り組む 


 主な連携推進業務の取り組みとして、@診療機能等の集約化・機能分担、病床規模の適正化、A医療機器等の共同利用、B委託業務の共同交渉、C医療と介護の連携強化、情報共有、D医療従事者の派遣体制の整備、人材育成、人事交流、E地域フォーミュラリの推進、F地域全体の財務状況共有、連結費用管理などを実施している。
 「診療機能の集約化・機能分担、病床規模の適正化」の取り組みでは、急性期機能を日本海総合病院に集約する方向性を参加法人で確認した。それに伴い、慢性維持透析患者を参加法人の一つである本間病院へ集約化を進め、赤字であった透析事業を黒字化させるとともに、日本海総合病院が急性期医療に集中できる環境を確保した。
 「透析機能の集約化は、法人設立の目途が立った平成29年に前倒しで実施しました。一般病床をもつ本間病院の経営が厳しくなると、当機構にも大きな影響があり、平均在院日数も伸びてしまうので、これはどうしても避けなくてはなりませんでした。どのようなかたちで支援すればよいのかを考えたときに、本間病院は透析治療を行っていたため、維持透析機能をすべて集約化するとともに20床を増床しました。拡充に必要な人員については、当機構から臨床工学技士と看護師を派遣しました。職員の人件費については、派遣先の給与規定に基づき入金してもらい、当面は当機構が給与差額を負担するかたちとしました」。
 令和元年には、本間病院に慢性心不全や慢性呼吸器感染症の患者を紹介し、病床が足りなくなっていたことから、日本海総合病院の休床中であった急性期病床4床を、回復期リハビリテーション病床として移譲している。
 そのほかにも、参加する4法人が運営する訪問看護ステーションの統合再編を実施し、機能の充実や効率化、経営の安定化を図った。令和2年に4事業所を2事業所に統合しており、将来的には1事業所に統合して日本海ヘルスケアネットに運営を移すことを予定しているという。
 「訪問看護ステーションの統合により1事業所あたりに配置する看護師が増え、2事業所とも機能強化型の施設基準を取得して経営の安定化につながっています。令和3年度時点で、県内には訪問看護ステーションが74カ所ありますが、そのうちの6割の事業所は看護師が5人未満となり、機能強化型の施設基準がとれず、スタッフの負担も大きくなっています。訪問看護ステーションは在宅医療で重要な役割を果たしているため、今後はこのような事業所に連携推進法人への参加を呼びかけ、一緒に進めていくことも考えています」



ICTを活用した医療情報の共有


 「医療と介護の連携強化、情報共有」の取り組みでは、統一的な退院支援、退院調整ルールの策定や地域連携クリティカルパスの充実を図り、それを可能とするために必要な施設情報、患者情報の共有を医療情報ネットワーク「ちょうかいネット」を活用して行っている。
 平成23年4月に本格稼働した「ちょうかいネット」は、個人情報を保護したうえで、「ID-Link」という仕組みにより、同意を得た患者の診療情報をインターネットで医療機関・介護事業所が共有することのできるシステムであり、「診察録の開示」、「各種検査結果共有」、「画像情報共有」、「レポート共有」などの機能を有している。
 さらに、調剤情報共有システムを搭載しており、調剤情報をインターネットクラウド上に保存し、調剤薬局間で共有することで、重複処方や併用禁忌のチェックを行うことが可能となっている。
 「令和3年9月現在、『ちょうかいネット』の登録患者数は5万3632人に達し、これは庄内二次医療圏の人口の約2割に相当しています。医療情報を共有することにより、急性期、回復期、在宅医療に至るまで一貫した治療方針のもと、切れ目のない医療を提供することができ、入退院のカンファレンスの時間の大幅短縮につながっています」。
 「医療・介護従事者の派遣体制の整備、人材育成、人材交流」の取り組みでは、医療・介護従事者の確保が難しい事業所に対し、参加法人間で職員の派遣を行うほか、人材育成の一環として共同での研修会の開催や人事交流を実施している。
 令和3年9月時点で、医師8人と看護師6人を参加法人に派遣しており、これにより人材派遣業者への斡旋費用の削減ができている。診療所や老健を運営する参加法人に看護師を派遣することにより、過重勤務の緩和を図り、老健では在宅強化型の算定を取得して経営を改善したという。


地域フォーミュラリを推進


 さらに、日本海ヘルスケアネットでは、薬剤師会から提案を受け、「地域フォーミュラリ」を推進している。
 「地域フォーミラリは、『医療機関・地域における患者に対して最も有効で経済的な医薬品の使用方針』であり、薬剤の有効性、安全性、経済性を検討して地域での推奨薬を選定することで地域の連結費用管理に結びつくと考えました」。
 地域フォーミュラリの導入に向け、平成30年5月に薬剤師会、医師会、病院機構の薬剤部などで検討を開始し、生活習慣病を中心に選考基準に基づいた薬剤を選定した。理事会での承認後は、地域の関係者に対して導入に向けた説明会や啓発活動を行い、平成30年11月から運用を開始した。
 「推進区域で調剤情報共有システムに参加している41調剤薬局のデータを解析したところ、令和元年度と令和2年度の比較で、調査した6薬剤の年間削減額は5842万円であることがわかりました。これに基づき、北庄内地域の人口比率による年間削減効果を推計すると、二次医療圏全体で運用した場合、年間1億1700万円の削減が見込まれます」(表1、2)。
 また、「地域全体での財務状況共有、連結費用管理」の取り組みにおいては、数値の把握や検証により具体的な課題を抽出することで将来計画の管理に役立てている。
 地区三師会を除く、参加7法人の平成29年度と令和2年度の決算を比較すると、法人設立前に純損失を計上していた3法人のうち、2法人が黒字に転じ、残りの1法人の収支も大幅に改善しているという。
 新型コロナウイルス感染拡大への対応としては、令和2年12月に参加法人の精神科病院でクラスターが発生した際に、地域連携推進法人のサポートにより、2週間という短期間で収束させることができたという。
 「日本海総合病院からゾーニングや感染症の専門知識をもつ看護師、職員を派遣するとともに、医師会が個人防護服などの医療資材を届け、陽性者や濃厚接触者を増やさないために、全職員のPCR検査を迅速に実施したこと、ゾーニングを厳格にできたことが大きかったと思います。実は、同時期に隣町の病院でもクラスターが発生しており、支援に入った医療従事者がグリーンゾーンで感染するということが起こりました。最終的に約70人の患者・職員に感染が広がり、収束まで2カ月近くがかかりました、日本海ヘルケアネットのサポートがなければ、これほど短期間で収束させることは難しかったと思います」。
 過疎化、少子高齢化が進む地域において、持続可能な医療・介護の提供体制の構築を目指す同法人の今後の取り組みが注目される。


表1

表1


経営改善などの結果が信頼関係に
地域医療連携推進法人日本海ヘルスケアネット 代表理事
地方独立行政法人山形県・酒田市病院機構 理事長
 栗谷 義樹氏
栗谷 義樹氏  地域医療連携推進法人の円滑な連携では、信頼関係があるかどうかということが重要になります。実際に連携や共同事業により経営が改善するなど、結果として現れていることも参加法人がついてきてもらえている要因だと思います。現在は、新たに2〜3法人から参加の打診をいただいています。
 また、要望としては、地方独立行政法人の内部留保の執行について、もう少し弾力的なルールをつくってもらいたいということがあります。創設から5年で見直しをする予定となっていますので、もし機会があれば伝えていきたいと考えています。


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代表理事 栗谷 義樹 法人開設 平成30年4月
参加法人 10法人
住所 〒998−8501山形県酒田市あきほ町30番地(日本海総合病院内)
TEL 0234−26−2001 FAX 0234−26−5114
URL https://nihonkai-healthcare.net


■ この記事は月刊誌「WAM」2022年4月号に掲載されたものを掲載しています。
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