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サービス取組み事例紹介
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東京都板橋区・医療法人社団焔「おうちにかえろう。病院」

「おうちで暮らす」を支える病院を開設

 福祉医療機構では、地域の福祉医療基盤の整備を支援するため、有利な条件での融資を行っています。今回は、その融資制度を利用された東京都板橋区にある「おうちにかえろう。病院」を取りあげます。同院は、令和3年4月に「自宅で自分らしく生きる」ことを支える在宅のための病院として開設しました。施設の特色や取り組みについて取材しました。


地域の在宅医療の中核を担う


 東京都板橋区にある医療法人社団焔は、「自宅で自分らしく死ねる、そういう世の中をつくる。」という法人理念のもと、地域の在宅医療の中核を担ってきた。
 法人の沿革としては、理事長の安井佑氏は東京大学医学部を卒業後、一般病院で勤務をする傍ら、国際医療ボランティア団体ジャパンハートの一員としてミャンマーでの国際医療支援や東日本大震災の被災地での医療活動に参加。その経験から在宅医療の重要性に着目して平成25年に「やまと診療所」を開設。平成27年4月に医療法人社団焔を設立した。
 現在の法人施設は、「やまと診療所」をはじめ、訪問看護と訪問リハビリテーションの複合型事業所「おうちでよかった。訪看」、「ごはんがたべたい。歯科」、「おうちにかえろう。病院」を運営。多死社会を「自分らしく」生きるために必要な新しい医療のかたちを作り続ける医療チームとして「TEAM BLUE」をブランディングし、在宅医療を支えるさまざまなサービスを提供している。
 在宅診療は「やまと診療所」の所在地である板橋区のほか、荒川区、練馬区、中野区などを診療エリアとする2カ所の拠点があり、在宅患者数は約1,200人、自宅看取り件数は年間550件にのぼる。
 これらの対応を可能とするスタッフの体制として、常勤医15人を配置するほか、法人内の独自資格となる「在宅医療PA」(Physicianassistant)が患者や関係機関との調整、書類作成、車両の運転などを行っていることが特色となっている。「在宅医療PA」は約40人が配属され、医師のパートナーとして診療のサポートを行うことにより、1日100件を超える訪問診療を実施することが可能となっているという。


「おうちにかえろう。病院」を開設


 令和3年4月に開設した「おうちにかえろう。病院」は、在宅や施設など地域で療養して治療が必要になったサブアキュートの患者を中心に、急性期の治療後に引き続き治療を必要とするポストアキュート、家族の休息や環境調整のためのレスパイト入院、看取りの4つの機能を有している。
 在宅医療に特化した法人が病院を開設した経緯について、病院長の水野慎大氏は次のように語る。
 「『自宅で自分らしく死ねる、そういう世の中をつくる。』という法人理念のもと、これまでに5,000人を超える在宅患者を診てきましたが、毎月5%前後の患者が入院していくなかで、そのうちの30〜40%が自宅に戻ることのできない状況がありました。病院では病気の治療が主となり、再び在宅に戻すという意識が少ないと感じていたこともあり、『自宅で自分らしく生きる』ことを支える在宅のための病院をつくりたいと考えました」(以下、「」内は水野病院長の説明)。
 なお、同院を含め、法人の施設名に句点をつけているのは、医療者側の呼びかけではなく、患者・家族自身に「よし、おうちにかえろう!」と思ってもらえる支援をしていく想いが込められているという。
 120床すべてが地域包括ケア病棟。建物は地上5階建てで、1階が診察室や検査室、機能訓練室(リハビリ室)、2〜4階部分が病棟、5階が職員専用フロアとなっている。職員専用フロアではフリーアドレスを導入し、職種を超えた連携や意見交換を行う体制をつくるほか、託児所を設置して職員の働きやすい職場環境を整備している。


外部との断絶をなくす設計の工夫


 施設設計のコンセプトは、外部との断絶をなくすことを掲げ、正面口を入ったエントランスホールは、ガラス張りで日本家屋の縁側をイメージしてデザインした。エントランス中央にはカフェテリアを設置し、入院患者や家族、スタッフのほか、多くの地域住民に活用されており、院内にさまざまな人が行き交う環境をつくった。
 1階に設置した機能訓練室「だんだん広場」は、一般的に病院の機能訓練室は閉鎖された空間でリハビリを行うことが多いなか、壁や扉のない開放的な空間であることが特徴となっている。ネーミングの通り、段差や高さが異なる階段をつくり、入院患者が自宅での生活を想定したリハビリに使用するほか、音響やスクリーンなどの環境を整備したことで講演会やコンサート、映画の上映会など、さまざまなイベントに活用することができる。
 病棟では業務の効率化のため、すべての病室に無線のナースコールシステムを導入。ナースコールのボタンを押すと看護師のスマートフォンに通知が入るほか、ベッドサイドのカメラで様子を確認することが可能となっている。通常ある配線をなくすことで設置費用の削減にもつながったという。


▲ エントランスホールは、外部との断絶をなくすことをコンセプトに日本家屋の縁側をイメージ ▲ 病棟の個室。業務の効率化に向け、全病室に無線のナースコールを導入

▲ 機能訓練室「だんだん広場」は、開放感のある空間でリハビリだけでなく、さまざまなイベントに活用することができる ▲ 5階は職員専用フロアでフリーアドレスを導入


 病棟のデイルームは、フロアの中央にある落ち着いた雰囲気の「内の間」と、陽当たりのよい南側に面した「外の間」があり、患者はその日の気分によって過ごす場所を選べる環境を提供している。同院では、スタッフと患者がコミュニケーションを取りやすい環境をつくるため、病棟には医局を置かず、デイルームでカンファレンスを行うスタッフと患者が同じ空間で過ごしたり、交流することが日常的な光景となっているという。
 そのほかにも、患者や家族、スタッフが気軽に対話ができる設計の工夫として、病棟の廊下には、座って会話ができる半個室の談話スペースや、職員が立ったままタブレットなどの入力業務ができる「止まり木」という作業スペースを設置している。
 「談話スペースは、廊下からの視線が柔らかく遮られる安心感があり、腰かけが弧を描いているので2人で座ると斜めの角度で対するようになります。患者・家族に対して、退院後の生活などの話をする際に相談室のように対面で話す圧迫感がなく、本音が出やすくなります。本音で話をすることは、意思決定支援をしていくうえで重要なことになるので効果を実感しています」。


▲ 各病棟のデイルームは、陽当たりのよい「外の間」(写真上)と、落ち着いた雰囲気の「内の間」(写真下)があり、患者はその日の気分によって過ごす場所を選ぶことができる

▲ 病棟の廊下に設置した談話スペースは、相談室のように対面で話す圧迫感がなく、安心して対話ができる ▲ 院内の各所には、立ったまま業務のできるスペース「止まり木」を設置

入院後も在宅医が継続して対応


 診療方針では、通常の診療に加え、「退院後の自宅での生活を『自分らしく』生きられるための支援」に力を入れ、自宅に帰ったあとを見据えた治療とリハビリを行い、病気ではなく生活を中心とした治療プランを組み立てている。
 「当院の特徴として、病院には常勤医を配置していますが、在宅医療を受けていた患者が入院した場合、在宅の担当医が病棟を訪問して状態を確認し、入院中の急な変化にも在宅医に相談して対応しているため、患者にとって安心感があります。病院の常勤医にとっても、自宅での患者の様子がみえていないなか、それを知っている在宅の担当医と直接やりとりができることは非常に大きな強みとなっています。その一方で、開設当初は自宅での生活を見据えて必要なリハビリや支援を主目的としてきましたが、急性期病院から転院した患者については、もう少し手前の『そもそも自宅に戻るのか』というところから、きちんと意思決定支援をしていく必要性を感じています。本来であれば、そのような意思決定は急性期病院で決めるわけですが、急性期ではあまり在宅がみえていないことがあり、『自宅に帰ったり、施設に入所すると、こういう生活になる』、『家族としてこのような関わりになる』ということを具体的に伝えたうえで、患者・家族にとって『どうすれば自分らしく生きていけるのか』正しい選択ができるように一緒に考えています」。


自宅での生活を想定した支援


 入院中の過ごし方として、自宅に帰ってからの生活を想定して支援を行うため、入院患者は全員同じ病衣を着るのではなく、洋服や寝間着を持参して1日2回着替える生活や、食事の準備や片付けのほか、服薬管理などを自分で行うことを推奨しているという。
 「着替えについては、家に帰って病衣で生活する人はいませんし、1日の生活リズムをつくる目的があります。これは主観的な考えですけど、同じ病衣を着ていると表情が乏しく、スタッフや患者同士が互いに認識しづらくなります。普段着だとそれぞれの個性や性格がみえることがきっかけになり、コミュニケーションがとりやすくなることを実感しています。服薬管理については、病院では100%服薬していても、自宅では7割程度しか服薬しないことで体調に変化があるのであれば、それを想定した薬の調整をしていく必要があります。そのため、入院中は患者自身に服薬管理をしてもらい、どのような工夫をすれば、しっかりと服薬できるのかを考えていくとともに、実際に患者ごとの服薬状況を知り、在宅に戻ったあとの薬の調整をしていくという意味合いも大きくなっています」。


▲ 1〜5階をつなぐ階段の踊り場にはテーブルを設け、スタッフが在宅患者との電話連絡などの業務や患者のリハビリにも活用されている ▲ 職員専用フロアには託児所を設置し、働きやすい職場環境を整備している


摂食嚥下機能の適切な介入も強みに


 また、リハビリの工夫として、患者の状態を見極めながら、自宅で維持可能な状態にとどめて自宅に帰すという考え方を実践している。
 「当然ながらリハビリを行うセラピストは、できるだけ身体機能や日常生活機能を上げたいと考えます。しかし、ベストな状態まで上げてしまうと、それを前提にしたサービスが組まれ、自宅に戻ったあとに落ちてしまい、そこから生活が崩れるおそれがあります。そのため、自宅に退院する1〜2週間前からセラピストによるリハビリは撤収し、いわゆる生活リハビリ、自主トレーニングに移行するケースもあります」。
 これらの支援により、開院以来の入院患者数は延べ500人以上で、平均在院日数は21日前後、在宅復帰率は90%以上となっている。
 在宅医療との連携については、これまで法人が専門としてきた訪問診療や訪問看護・リハビリを組みあわせたシームレスなサービスを提供している。グループ内の歯科クリニックに摂食嚥下の分野に特化した歯科医がいることで、患者はもちろん、食事の介助をする家族に適切な介入ができることも強みとなっているという。
 退院後の自宅での生活を「自分らしく」生きられるための支援を行う同院の取り組みが今後も注目される。


在宅医療を熟知した人材を育成
医療法人社団焔  「おうちにかえろう。病院」
病院長 水野 慎大氏
 当院は120床すべてが地域包括ケア病棟です。病棟をしっかりと整備していきながら、いずれは地域のニーズに応じて外来診療を開始することを予定しています。
 いちばんの課題として、地域の医療機関にそれぞれの役割分担があるなかで、急性期や回復期リハもそうですが、互いの強みと弱みを把握しきれていない部分があります。その役割を互いに認識して発揮しあうことができれば、この多死社会を支えられると思います。
 今後、取り組みたいことは人材育成に尽きます。在宅医療を熟知した人材を育成して、そのスタッフが他の医療機関で働くことになったとしても、次でさらに活躍してくれれば、いろんなところに種まきができると考えています。


<< 施設概要 >>令和5年7月現在
理事長 安井 佑 病院開設 令和3年4月
病院長 水野 慎大 病床数 120床
診療科 内科、外科、整形外科、皮膚科、心療内科、リハビリテーション科、循環器内科、形成外科
職員数 約400人(法人全体)
法人施設 「やまと診療所」、「おうちでよかった。訪看」、「ごはんがたべたい。歯科」
住所 〒174−0061東京都板橋区大原町44−3
TEL 03−5926−5091 FAX 03−5926−5092
URL https://hospital.teamblue.jp


■ この記事は月刊誌「WAM」2022年8月号に掲載されたものを一部改変して掲載しています。
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