サービス取組み事例紹介
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▲ 施設の外観 |
地域の子育てニーズに応えた事業を展開
山梨県中巨摩郡昭和町にある社会福祉法人健輝会は、「子どもを中心にご家族の心と体がげんきになれるような医療と保育を目指す」という法人理念のもと、地域の子育てニーズに応えた包括的な支援に取り組んでいる。
法人の沿革としては、県内の小児救急体制が確立されていないなか、平成16年に夜間・休日診療所としての役割を担うため、数名の小児科医と診療を開始し、翌年に医療法人社団健輝会(理事長・宮本直彦氏)を設立したことにはじまる。平成21年に現在の開設地に移転して「げんきキッズクリニック」を開院するとともに、甲府市にある小児初期救急センターが稼働したことに伴い、診療時間を日中へと変更し、地域の小児科専門診療所へシフトした。同時に、同一敷地内に認可保育所「げんき夢保育園」を開設し、医療と保育を一体的に提供する体制を整備している。平成26年2月に社会福祉法人健輝会を設立し、保育事業を移管しており、平成30年には認可保育所から幼保連携型認定こども園に移行している。
さらに、地域の子育て支援ニーズに応えるため、平成22年から昭和町の委託事業として病児保育室「ドリーム」の運営を開始したことにはじまり、平成27年に放課後児童クラブ「ゆめくらぶ」、平成28年に重症心身障害児の日中一時預かり施設「スマイル」、平成30年に子育て支援センター「ながれ星」、令和6年7月には産後ケアセンター「いちばん星」を開設し、子育て支援を包括的に行う体制を強化している。
これらの事業はすべて同一敷地内で実施しており、小児科クリニックと重症心身障害児日中一時預かり施設を除き、社会福祉法人として運営している。
包括的な子育て支援に取り組んだ経緯について、社会福祉法人健輝会理事長・園長の宮本知子氏は次のように説明する。
「もともと、私は甲府市の保健師をしていました。小児科クリニックの院長である夫と5人のこどもを育てるなか、さまざまな施設にこどもを預けてきましたが、なかなか自分が預けたいと思える保育所に出会えず、開設したのが当園になります。当時、小児科クリニックを併設した保育施設は全国でも少なかったのですが、開園当初から医療的ケアの必要なこどもの入園を受け入れてきました。私自身も子育て経験から病児保育は不可欠だと感じていましたし、地域から寄せられた子育てに関する困りごとに対し、一つひとつ応えるかたちで事業を展開しています」。
こどもたちの自尊感情や自立心を育む
平成21年4月に開園した「げんき夢こども園」の定員は75人で、こども同士のふれあいを大切にする縦割り保育を実施している。
同園の実践する保育の特色について、主幹保育教諭の野はるみ氏は次のように説明する。
「当園は、障害児保育として発達障害や身体障害のこどもを積極的に受け入れ、利用児全体の2割近くを占めています。健常児と障害児が一緒に生活するインクルーシブ保育を前提としながら、こどもたちの自尊感情や自立心を育む保育を実践しています。また、障害児は支援クラスではなく、同じ年齢のクラスで生活しているため、こどもたちも障害を個性として捉え、当たり前の環境として受け入れながら、こども同士で助けあうことも自然に行われています」。
園舎の設計では、多くの障害児を受け入れているため、施設内は段差がなく、全面芝の園庭では乳児期からハイハイで遊ぶことができ、下半身麻痺のあるこどもと健常児が一緒に芝生のうえで寝ころびながら遊んでいる光景が日常となっているという。
遊戯室は同じ広さの部屋が3室あり、仕切り戸で区切られた各部屋をつなぐことで、季節行事などのイベントに活用できるホールにすることが可能となっている。
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▲ 「げんき夢こども園」の1歳児クラスの保育室 | ▲ 全面芝の園庭では、こどもたちが安心して走り回ったり、乳児期からハイハイで遊ぶことができる |
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▲ 遊戯室は、同じ広さの部屋が3室あり、仕切り戸で区切られた各部屋をつなぐことで、さまざまなイベントに活用することができる |
クリニックと連携し、こどもの発達や心の成長を見守る
小児科クリニックとの連携では、園医である院長によるこどもたちの健康診断を年3回実施し、体の成長だけでなく発達や心の成長を見守っている。気になることがある場合には、保護者に伝えるとともに紹介状を出し、早期に専門機関につなぐことで、一人ひとりの特性を見極めながら、スムーズに小学校への就学ができるよう支援している。
さらに、クリニックの小児科医である院長は、アレルギー専門医でもあり、保育施設にとっては食物アレルギーへの対応が大きな課題となるなか、適切な医療情報のもと給食の提供や食育に取り組むことが可能となっている。最新の小児科医療の情報が得られることは、こどもや保護者だけでなく、職員も安心して保育を行うことにつながっているという。
そのほかにも、同園では開園時からの取り組みとして、保護者を対象にした保育参加を年1回実施している。
「保育参加は、平日にご夫婦で来園してもらい、外遊びや給食を一緒に食べたり、寝かしつけをして、こどもが昼寝をしている時間に懇談会をしています。1回あたりに参加する保護者が多いと保育参観になってしまうので、各クラスに1〜2組にすることでこどもと関わる機会を増やしています。保育参加のねらいとしては、保育士とこどもの普段の関わり方をみていただき、保護者に安心してもらうことがあります。また、保護者が自分や他人のこどもに対し、どのように接するのかを確認することで、私たちが保護者を理解する機会にもしています。さらに、こども自身が親に成長した姿をみせたいという意欲につながるなど、三者にとって意味のある活動となっています」(宮本園長)。
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▲ 小児科クリニックを併設し、保育と医療の両面から子育てを支援している |
病院保育は年間1,000人の病児(延べ)を受け入れ
定員10人の病児保育では、子育て経験のある保育士を配置し、クリニックの看護師が1日3回の状態の確認を行い、診察が必要な場合にはすぐに小児科医に診てもらえるため、保護者だけでなく、保育士も安心してこどもを預かることができている。
当初、病児保育の利用対象は昭和町の在住者に限定していたが、宮本院長は全国病児保育協会の山梨県支部長として、県と度重なる意見交換を行い、広域利用を働きかけることで、平成29年より県全域からの利用が認められるようになり、現在の年間利用者数は延べ1,000人近くに達しているという。
「さらに、山梨県支部として病児保育の利用料(2,500円)の減免に関する要望書を提出したところ、令和6年10月から県と市が1,000円を負担し、1,500円で利用できるようになりました。病児保育の広域利用は山梨県が全国初で、補助金が創設されるなど、子育てしやすいまちづくりが進められています」(宮本園長)。
そのほかにも、同園では健常児に限らず、発達障害や身体障害をもつこどもたちを受け入れる放課後児童クラブや、保護者のニーズにあわせて、こどもを受け入れる一時預かり事業を実施している。
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▲ 病児保育は、県内全域から年間1,000人近くの利用がある |
重心児の一時預かり事業を開始
重症心身障害児の日中一時預かり施設「スマイル」は、小児科クリニックで訪問診療を行うなかで、重度の障害をもつ児童の家族が疲弊している姿を目の当たりにし、レスパイトケアの必要性を感じたことから平成28年に開設した。当時、重症心身障害児を預かる施設は民間では県内初であったという。
「『スマイル』の定員は2人で、看護師と保育士を配置し、必要に応じて看護師が喀痰吸引や経管栄養、気管切開、人工呼吸器による酸素療法などの医療的ケアを行っています。保育士がスキンシップを図りながら、演奏して歌を歌ったり、絵本の読み聞かせや制作活動に取り組んでいます。すると、迎えに来た保護者が『健常児と同じ体験をさせたかったのです』と涙することもあります」(野氏)。
「スマイル」では、親のレスパイトとともに、親元から離れて生活するなど、さまざまな経験を積むことで将来に備える目的で県内全域から利用されているという。
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▲ 重症心身障害児日中一時預かり施設では、看護師による医療的ケアを行っている |
多様な子育て支援に取り組む
平成30年に開設した子育て支援センターは、障害の有無にかかわらず未就学児の親子の誰もが通える子育て相談や遊び、交流の場として運営している。
活動内容では、園庭遊びや制作活動、専門医による講演、発達障害のこどもをもつ母親の懇談会などを行うほか、初めて育児をする1歳未満児の母親を対象に、子育ての悩みを園長や栄養士に相談しながら、仲間づくりを行う「子育てげんきプログラム」を実施している。
さらに、令和6年7月に産後ケアセンター「ながれ星」を開設し、クリニックと協働して母子の心身のケアを行う産後ケア事業を開始した。
「当施設がある昭和町は、転勤族の方が多く、コロナ禍で里帰り出産ができなかったこともあり、育児で孤立している母親が少なくありませんでした。県内にある既存の産後ケアセンターは生後4カ月までの受け入れであるのに対し、当センターでは生後1年まで利用できることが大きな特徴となっています。きょうだい児や病児がいる場合にも、併設する一時預かりや病児保育を利用できるので、母親にゆっくりと休息をとっていただくことができます。また、子育て支援センターと同じフロアに設置することで、母親同士が交流を図り、仲間づくりができる環境をつくっています」(宮本園長)。
これらの多様な子育て支援事業を運営することは、利用者だけでなくスタッフにとってもよい影響をもたらしているという。
「当施設では、全部門のスタッフが集まる職員会議を毎月行い、各部門の状況や課題を共有しながら、共通理解を図ることに取り組んでいます。さまざまな支援について学べることは、スタッフの視野が広がり、ケアの質を高めることにつながっています」(野氏)。
こどもと保護者の体と心をげんきにする包括的な子育て支援を行う同法人の取り組みが、今後も注目される。
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▲ 令和6年7月に開設した産後ケアセンター「いちばん星」。同じフロアに子育て支援センター「ながれ星」を運営し、母親同士が交流する機会をつくった |
保育の仕事をリスペクトする社会が必要
社会福祉法人健輝会 げんき夢こども園
理事長・園長 宮本 知子氏
現在の課題としては、働きやすい職場づくりとして職員専用の休憩室を設けたり、十分な休憩時間の確保に取り組んでいますが、保育士の人材確保と定着は厳しい状況にあります。
さらに、その要因として保護者のなかには保育をサービス業として捉え、過剰な要求をされるケースも増えており、真面目な職員や保育に思い入れがある職員であるほど、感情労働として疲弊してしまうところがあります。もちろん処遇の改善も重要ですが、保育の仕事に対してリスペクトしてくれる社会にならなければ、保育士を志す人材を増やしていくことは難しいと感じています。
理事長/園長 | 宮本 知子 | 病院開設 | 平成21 年4 月 |
定員 | 75 人 | ||
併設施設 | げんきキッズクリニック(小児科、アレルギー科)、重症心身障害児日中一時預かり施設「スマイル」、病児保育室「ドリーム」、子育支援センター「ながれ星」、放課後児童クラブ「ゆめくらぶ」、産後ケアセンター「いちばん星」、一時預かり「にこにこくらぶ」 | ||
住所 | 〒709-3863 山梨県中巨摩郡昭和町河東中島748−2 | ||
TEL | 055−268−5577 | FAX | 055−268−5598 |
URL | https://www.genkikids-clinic.com/ |