厚生労働省の社会保障審議会介護保険部会(部会長:菊池馨実・早稲田大学理事・法学学術院教授)が5月19日に開催された。前回(4月21日開催)は「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会の中間とりまとめが報告されたが、今回より二度に分けて、検討会で整理した3項目に関する具体的議論が交わされる。
初回である今回は以下の2項目に関して、そして次回は残りの1項目(「地域包括ケアとその体制確保のための医療介護連携、介護予防・健康づくり、認知症ケア」)について、論点の整理と話し合いが行われる。とりまとめは2025年冬頃を予定。
1.人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築
地域における人口減少、サービス需要の変化に応じて全国を3つの地域に分類し、それぞれの状況に応じたサービス提供体制の構築について示した。
〈中山間・人口減少地域〉
利用者が幅広いサービスを継続的に受けることができる体制構築と、専門職が知識・経験をもとに地域で活躍するための観点から、サービスごとに設けられている常勤、専従要件、夜間勤務体制、専門職の確保における基準等について弾力化を検討。また小規模訪問介護事業者への包括的評価の仕組みをどうするか、訪問・通所間のサービスの連携、柔軟化のための具体的方法について検討する。その他、市町村事業によるサービス提供、社会福祉連携推進法人の仕組みをさらに活用する。
〈大都市部〉
2040年に向けて高齢者人口がさらに増加、サービス需要が高まることが予想されるため、多様な介護ニーズに応える仕組みの検討が重要になる。また、ICTやAI技術も活用してサービス基盤を整えることも必須となる。
〈一般市等〉
大都市とは逆に高齢者人口が増加から減少へ転じるなか、サービスを過不足なく確保できるかが焦点。中山間・人口減少エリアを抱えているところについては、早い段階から対策を講じる必要性あり。
上記3地域の支援体制については、医療や他分野との連携を強調。サービス提供体制の状況をエリア別に見える化し、状況の把握と分析、関係者間での共有や議論を求めた。同テーマに関して、最も多く意見が出たのが、「中山間・人口減少地域におけるサービスの維持・確保」だった(以下参照)。
○配置基準の見直しやICT導入に伴い、ケアの質をいかに維持・担保するかが課題。サービスの質をアウトカムで評価し、それに基づいた制度設計が重要に
○医療と施設間、あるいは在宅系サービスの間でのスタッフの行き来が、より流動的に行えるようなインフラの整備が必要
○人員基準の弾力化は、現在も不足している職員への負担と離職につながらないよう精査が必要
○特別地域加算の対象地域においては、人員配置基準の柔軟な対応を最大限行うとともに、介護報酬においても1人あたりの単価を引き上げ、採算性を確保してはどうか
○定期巡回・随時対応型訪問介護・看護や小規模多機能型居宅介護が中山間・人口減少地域におけるサービスにフィットすると期待されているが、残念なことにあまり広く普及しておらず、利用者に届きづらい点が課題となっている
2.介護人材確保と職場環境改善・生産性向上、経営支援
介護人材の確保・定着は、喫緊の課題で、賃上げや処遇改善の取り組みの継続が重要となる。これに関する多くの施策等は、社会保障審議会福祉部会や福祉人材確保専門委員会で議論されているが、処遇改善等の報酬関係、介護保険事業計画に関しては、当部会と介護給付費分科会で話し合われる。事業者の適切な雇用管理(ハラスメント対策を含め)も人材定着においては必須だ。
職場環境の改善・生産性向上を進めることで得た時間を、ケアや職員への投資に充て、ケアの質向上や人材定着に活かす。その際には、特に小規模事業者へのアウトリーチが課題となる。また介護助手等によるタスクシフト/シェアを視野に入れ、さらにデジタル中核人材の育成、小規模事業者等に対する相談窓口における伴走支援、介護記録ソフト・AIなど、居宅サービスにおける技術開発や研究が検討される。
経営支援に関しては、都道府県単位で体制を整備、大規模化によるメリットを示しつつ、協働化や事業者間連携を推進、社会福祉連携推進法人の活用も視野に入れる。
以上3点を総括するものとして、地域の関係者のネットワークで「プラットフォーム」(下図参照)を構築、関係者間で地域の現状の共有を図り、地域や事業者における課題を協働して解決することを示している。
当日資料3「介護人材確保と職場環境改善・生産性向上、経営支援について」22ページ
本テーマについては、次のような意見が示された。
○介護人材の定着と確保は、給与水準のみではなく、ウェルビーイングを向上させる健康経営の視点も重要
○介護事業は地域を支える産業であり、同時に雇用創出の場でもあることを念頭に置きたい
○介護は地域における重要なインフラ。退職した潜在介護福祉士の知見・経験は重要な人材資源であるので、地域で活動できる枠組みづくりが必要
○介護現場では介護職のリーダーが中核的役割を担っているが、具体的な役割や必要性について制度上明確にされていないのは課題。リーダーとなる介護福祉士が、その責任や負荷に見合った報酬を得られていないのも問題
○3年に1度の報酬改定では、昨今の物価高騰、他産業における賃金の上昇には対応できない。他産業への人材の流失を防ぐ対策に早急に取り組む必要がある
○公定価格としての介護報酬の設定に大きな問題があるため、抜本的な見直しを行い、適切な報酬を設定すべき
次回は残りの1項目である「地域包括ケアとその体制確保のための医療介護連携、介護予防・健康づくり、認知症ケア」について、論点の整理と話し合いが行われる予定。
当日資料1「今後のスケジュール(案)等」2ページ