第124回社会保障審議会介護保険部会(部会長:菊池馨実・早稲田大学理事・法学学術院教授)が9月8日に開催され、冬頃をめどに行われるとりまとめに向けて本格的な議論がスタートした。
主な議題は「人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築」で、6つの論点から話し合われ、特に懸案とされる「中山間・人口減少地域」における介護保険サービス提供の持続性に関して踏み込んだ意見が交わされた。委員から最も関心が高かったのが、人員配置基準の緩和と包括的評価の仕組みに関する課題である。
また、介護情報基盤や地域医療構想における医療と介護の連携に関わる医療法等の一部を改正する法律案についても検討がなされた。
人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築
<論点1:地域の類型の考え方>
2040年に向け、自治体・地域の規模により高齢化・人口減少のスピードに大きな差が生じることから、全国を「中山間・人口減少地域」「大都市部」「一般市等」に分類。各地域の状況に応じたサービスの提供体制や支援体制を構築していく。なかでも「中山間・人口減少地域」におけるサービス提供の維持と確保に、新たな柔軟化のための枠組みを設けることが重要となる。また、その際に対象となる地域を明確にすることも求められる。
これら3つの類型の分類の考え方については、概ね各委員の賛同を得られた。
<論点2:地域の実情に応じたサービス提供体制の維持のための仕組み>
「中山間・人口減少地域」においては、専門職の人材不足が顕著で人員配置基準等を満たすことが困難になっている実情から、すでに特例介護サービスとして基準該当サービス、離島等相当サービスを活用してサービスの維持を図っている。今後はサービスの質確保や職員の負担等に配慮しつつ、サービス・事業者間での連携を前提に、特例介護サービスの枠組みの拡張を行えないかといった検討が必要となる(人員配置基準の緩和等も含む)。
これらについては、以下、慎重な対応を要するとの意見が大半を占めた。
〇 要件緩和、人員配置基準の弾力化によって、サービスの質の低下、職員の業務負担の増加が懸念され、離職を誘発しかねない。
〇 基準該当サービスや離島等相当サービスを利用している事業所でも、介護報酬だけでは賄いきれない状況があり、財政的な下支えが不可欠である。特例介護サービスの現状を十分に把握したうえで、課題を抽出し、解消に向けた検討をお願いしたい。
〇 「サービスの質の確保や職員の負担等にも配慮しつつ…」とあるが、どのように具体的に配慮するか。「サービス・事業者間で間接業務等における連携を行う」こと以外に示されていないので、これのみをもって要件や人員配置基準の緩和を決めることは拙速である。
<論点3:地域の実情に応じた包括的な評価の仕組み>
「中山間・人口減少地域」では、特に訪問介護サービスにおいて利用者のキャンセルや移動に関する負担が大きい。またサービス需要の縮小や、季節による繁閑も安定的な経営を困難にしている。そのため、利用回数に左右されない月単位の定額報酬を地域の実情に応じ、選択可能とする枠組みを設けてはどうかとの考えが出された。
この方策に関しては、「出来高報酬ではなく定額報酬にすることへの懸念」の声が多く聞かれた。主な意見は以下の通りである。
〇 定額報酬に見合ったサービスの提供が十分に行われているか、何らかのチェック機能が必要。
〇 利用者の判断能力やケアマネジャーの給付管理に生じる負担が懸念されるので、選択制の意味は果たしてあるのか疑問。
〇 利用者は出来高制か定額制かを選べない立場にあり、1回あたりの単価が上がるなどメリットがない。また、定額制を導入すると実質的に出来高報酬の範囲内でしか給付が保障されないおそれがある。
〇 保険対象サービス費用の9割の保険給付についてのみ選択可能とし、1割の利用者負担については従来の出来高報酬として過度な利用者負担を求めることがないよう、仕組みの検討が必要。
〇 選択制のメリットのみでなくデメリットについてもっと精査し、慎重な検討を重ねたい。
<論点4:介護サービスを事業として実施する仕組み>
市町村が地域の実情に応じて柔軟にサービス基盤を維持・確保していくために、給付に代わる新たな事業として介護保険財源を活用し、介護保険サービスを実施できる仕組みを設けることを検討する。
これに対しては、「すでに実施されている総合事業との棲み分け」「介護保険財源を活用することの是非」「市町村の人材や財源の確保が可能かどうか、検討が必要」など、各委員たちより活発な意見が出た。
<論点5:介護事業者の連携強化>
「中山間・人口減少地域」のサービス提供を継続するためには、介護サービス事業所の協働化が奨励されており、すでに実践事例も見られるが、各地域における連携強化の仕組みづくりがさらに必要となる。連携推進のために、どのような行政の関与やインセンティブの付与が求められるかが課題となってくる。
これについては、「単なる大規模化とは分けて考えるべき」「複数介護事業者間での連携を可能とする枠組みを確実に実施したうえで、なおかつ必要な場合に限るなどの対応が必要」といった慎重な意見が多いなか、「小規模な事業者が多い離島、中山間地域でこそ必要な取り組み」という賛成意見も出た。
<論点6:地域の実情に応じた既存施設の有効活用>
通常、介護施設を転用すると(国庫補助により整備して10年未満)、補助金を返納しなければならない。だが、サービス需要が減少する中山間・人口減少地域の既存施設に関しては、既存施設を有効活用しながら、地域のサービス需要の変化に柔軟に対応するため、地域の関係者の合理形成を得たうえで、市町村が計画的に行う介護施設の転用については、補助金の国庫返納を求めないことを検討していく。
こちらについては、「中山間・人口減少地域においては、施設の空きスペース問題を解決する一つの方法となるのではないか」「地域の実情に応じた柔軟な対応を望む」「職員対応や確保についてさらに詳細な検討が必要」との意見が出された。
介護被保険者証の受け取りは65歳になったときではなく、要介護認定申請時に交付へ
現在、「介護情報基盤」については、介護被保険者証の事務や運用等の見直し案が検討されており、また災害時においても、介護情報基盤を用いて即座に対応できる仕組みの構築が求められている。本部会でもこれらについて以下のような多数の意見が出され、見直し案について方向性が了承された。
〇 介護被保険者証のペーパーレス化、つまりマイナカードの活用は、認知症の人や家族、さらに高齢者、身体障害者等の情報弱者と呼ばれる人にとって必ずしも優しい制度設計といえない。誰一人取り残されない移行のために、慎重な検討が必要ではないか。
〇 介護情報基盤の整備を進めるとともに、多職種との連携についても議論してほしい。その核としてかかりつけ医の役割が非常に重要であると認識している。
〇 介護被保険者証の65歳一斉交付から、要介護認定申請時交付へと見直す案は、現実的かつ合理的で賛同する。ただし住民への丁寧な説明(広報)、運用面でも混乱が生じないような配慮が必要となる。
〇 今後は介護分野でも、マイナカードを活用して、ケアプランの内容や要介護度の情報・データを共有するなど、医療分野と同様に連携を進めるべきである。
〇 災害時には、介護被保険者証やマイナカードを持たずに避難する人が多いことが想定される。災害救助法の適用地域に限り、特別措置として一定期間情報閲覧を可能とする仕組みを設けることは妥当な対応である。
部会の最後に、医療法等の一部を改正する法律案において、「地域医療構想の見直し等」部分が「医療と介護の連携」に関わるとして医政局より詳細な説明があり、連携イメージの共有がさらに進められた。