「幼稚園教育要領」(学校教育法)、「保育所保育指針」(児童福祉法)、「幼保連携型こども園教育・保育要領」(就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律に基づく告示)は「3要領・指針」と呼ばれ、幼稚園、保育園、認定こども園それぞれが目指すべきところを定めた法令である。2017年、同時改定を行い、幼児教育で育みたい資質・能力の明確化や「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を通じて幼保小の接続の推進の方向性を示すなど、それぞれのねらいや内容について整合性が図られた。
3要領・指針は、10年ごとに見直しが行われるため、2027年の次期改定に向けキックオフとなる話し合い(進行役:秋田喜代美・こどもの育ち部会保育専門委員会委員長・学習院大学文学部教授・東京大学名誉教授)が10月22日にスタートした。文部科学省(中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会幼児教育ワーキンググループ)とこども家庭庁(こども家庭審議会幼児期までのこどもの育ち部会保育専門委員会)が初めて合同で会議を設ける画期的な試みであり、第1回目となる今回は、今後の主な検討事項の説明と関係各団体へのヒアリングが行われた。
就学前の乳幼児期をこどもの育ちの重要な時期とし、
小学校までの一貫した教育の流れをつくる
本年9月、学習指導要領全体の改定に向けた中央教育審議会教育課程企画特別部会で論点整理が行われ、多様なこどもたちの深い学びを確かなものとし、生涯にわたり主体的に学び続け、多様な他者と協働しながら、自らの人生の舵取りができる民主的で持続可能な社会のつくり手を育むことの重要性が示された。この考え方を土台としつつ、今後小学校就学前のこどもたちが幼児教育を通じてどのように資質や能力を育んでいくか、幼児教育・保育のあり方に関する具体的な検討を行い、3要領・指針の改定を行う。以下が具体的な検討事項となっている。
1.遊びの中で直接的・具体的な体験の一層の充実に向けた、指導と評価の改善・充実のあり方
2.育みたい資質・能力のあり方・示し方
3.子育て支援の充実、地域の体制づくりの推進
前回改定(2017年)後、「こども基本法」の成立(2022年)、こども家庭庁の発足と「こども大綱」(2023年)、そして「こどもまんなか実行計画2024」が策定された。
なかでも、「こどもまんなか実行計画2024」に基づき2024年12月に閣議決定された「はじめの100か月の育ちビジョン」では、こどもの誕生前から小学校入学前の幼児期を生涯にわたるウェルビーイングの向上にとって最も重要な時期とし、社会全体で幼児期までのこどもの育ちを支える共通した考え方が羅針盤として掲げられた。
秋田喜代美委員長は、会冒頭の挨拶で、「幼稚園・保育園・認定保育園といった施設類型に関わらず、園に通うこどもたち全てに質の高い保育や幼児教育が行われ、こどもの育つ権利や遊び学ぶ権利が守られること。そして『はじめの100か月の育ちのビジョン』に基づいた教育が、小学校入学までの架け橋となるよう願いたい」と述べた。
次いで、中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会幼児教育ワーキンググループの古賀松香主査(京都教育大学教育学部教授)は、「乳幼児期からの資質・能力の育ちや学びを、その後の教育につなげていく取り組みは従来も行われてきたが、今後は現状の課題を捉え、よりよいあり方を考えていくことが必要となる。幼児教育ワーキンググループと保育専門委員会が合同でこれらを考える歴史の新たな1ページが開かれた。この機会に、全ての園における全てのこどもがしっかり受け止められ、しっかり遊び育つプロセスを生み出し、幼児教育、保育の質の向上に取り組んでいきたい」と述べ本会議の検討すべき方向性を示した。
「3要領・指針」の一本化に向け、
諸制度や法律との整合性をはかることが求められる
さらに、今後の議論を進めるにあたり、従来、3要領・指針において積み重ねてきた実践の成果や今後の改定に向けた期待、課題等について関係各団体より意見の表明があった。内容は以下の通りとなる。
<全国保育協議会>
6つの意見を提出した中で、特に以下の3点について強調した。
@「こどもまんなか」の理念に基づいた見直し
・ 年齢、学年の事情で引かれた線がこどもの育ちの大きな切れ目とならないように、環境の不断の改善を図る必要がある。
・ 施設類型によってこどもの育ちの切れ目が生じないように、要領・指針の一本化を望む。
Aこどもの育ちにおける養護と教育の視点の必要性
・ 要領・指針の見直しにあたっても、現在の養護の働きをベースにそこから教育を展開していくような検討を期待する。
Bこどもの育ちをともに見通せる視点
・ 自らのこどもを出産するまでこどもと関わったことのない保護者や、コロナ禍において実習経験の少ない保育士・保育教諭が増えているため、こどもの育ちが見通せるような、プロセスのさらなる可視化が必要である。
<日本保育協会>
主な意見は以下の通りである。
@現行の3要領・指針における成果と課題について
・ 「こどもの成長過程」に即して重要なキーワードを用いてきめ細やかに記述されているため、実践できれば大きな成果を生むが、一方、多岐にわたり網羅的に編纂されているので、ピンポイントで確認したい際に手間と時間がかかるのが課題。
・ 見せ方の工夫や端末から容易にアクセスできる仕様を期待する。若年層の文字離れが進んでいることを勘案して、「解説書」についてはデザインの工夫が必要である。
・ 保育者が「主体的な活動」を「こどもが思うがまま、やりたいようにやらせること」と勘違いしている点が問題である。
A次期改定に向けた期待
・ 「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」との整合性。
・ 「こども基本法」「こども大綱」「こどもまんなか実行計画」「はじめの100か月の育ちビジョン」との整合性。
・ 「改正児童福祉法」(児童虐待防止対策関係)や「こども性暴力防止法」との整合性。
・ 「こども誰でも通園制度」との整合性。
・ こどもの主体性について、0歳児から有する「こどもの意思表明権」「学ぶ権利」が盛り込まれることを期待。
・ 発達障害などの特性を持つこども等、多様なこどもたちへの強みを伸ばす支援についての議論の掘り下げを期待。
・ 「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」は大人目線なので一考を。
<全国私立保育連盟>
10の意見を提出した中で、特に以下3点について論点を絞り示した。
@こどもとともに「自分たちの手で自分たちの暮らしをつくる」保育の重視
・ 保育所は遊びや生活を通してこどもたちが自らの手で暮らしを形作る場。こどもの主体性を尊重し、保育者もまた「こどもの暮らしの共創者」として環境・関係を共に築いていく姿勢を明確に位置付けてもらいたい。
A「できない自分を安心してさらけだせる場」の保障
・ 日本のこどもは自己肯定感が低いと言われるが、できる/できないという視点ではなく、自らを安心してさらけ出せる場の保障を次期改定で位置付けてもらいたい。
B保護者・家庭・社会と「ともに考え」、保育の価値を共有する仕組みの明確化
・ 遊びが学びに直結していると、なかなか保護者に理解してもらえないケースも多い。改定ではそういった価値観の共有がしやすいような文言選びにも注力してもらいたい。
<全国認定こども園連絡協議会>
6つの意見をまとめ、特に以下3点について言及した。
@どんなこどもたちに育ってほしいのか、どんな形の社会を目指すのか、どんな環境で育てるのか、基本となる視点がぶれないような改定を望む。
A法律が壁にならないように3要領・指針の一本化を実現してもらいたい。
B少子化対策の一部を担う内容、子育ての楽しさや家族の大切さを盛り込んだ内容にしてほしい。
<全国認定こども園協会>
主な意見は以下の通りである。
@幼保連携型認定こども園が、幼児教育・保育施設の機能面で全てのこどもの類型と子育ての支援部分を網羅している。今後の改定のプロセスとして、「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」が全てのこどもを網羅する形で改定した上で、「保育所保育指針」「幼稚園教育要領」に分割するようなイメージを持つことが重要ではないか。
A現行の「第3章 幼保連携型認定こども園として特に配慮すべき事項について」は、もはや特筆事項ではなく、すべての施設でも配慮すべき事項であるため、名称や記載内容の変更が必要だ。
B「こども基本法」「はじめの100か月の育ちのビジョン」を踏まえた記載が必要。
C災害への備えへの追加記載。
D人間関係、コミュニケーションの重要性。
E保育現場に則した評価の仕組みの実現。
F教育・保育要領の内容を実現するため本改定と併せた制度の修正が必要。
・ 配置基準の推進、保育者の処遇改善、公定価格基本分単価に含まれる人件費の検討など
<認定こども園連盟>
主な意見は以下の通りである。
@保育目標の設定について
・ 現在の要領では「認定こども園法第9条」に基づく6つの保育領域(人間関係・環境・言葉・表現・生活)に加え、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」という別の目標記述が並列的にあるため、ダブルスタンダードに見え、理解しづらい点が課題。
A乳児保育の「内容」と「内容の取り扱い」混在を整理し改善する。
B自然成長論的な印象を受けるので、要領・指針の表現には工夫、改善を検討すべきではないか。
<全国国公立幼稚園・こども園長会>
提言の中で、以下の論点に絞って言及した。
@現行の幼稚園教育要領等における課題と期待される改善・充実の方向性について
・ 幼児の自発的な活動としての遊びにこそ、主体的創造性というこれからの時代を生きる力の芽が宿っている。
・ 幼児の学びは遊びに夢中になる過程に生まれるもので、こどもの思いがあってこそ、環境が意味を持つ。
・ 小学校以降のような明確な順序性がないからこそ、教師の力量が問われる。
・ 評価とは成果をはかるものでなく、成長の兆しを受け止め、学びを支える営みであるべきである。
<全日本私立幼稚園連合会>
3つの提言のなかで、以下について重点的に触れた。
@直接的・具体的で多様な体験を保障する豊かな環境
・ 現在、外遊びの機会が減り、豊かな環境を有する園庭遊びが非常に重視されている。
・ 園庭を緑地化した結果、こどもの健康が向上したというエビデンスも出たほどなので、園庭遊びができる環境づくりを後押しする方向性に期待したい。
<全国連合小学校長会>
主な意見は以下の通りである。
@コロナ禍を経て、盛んになりつつあった幼保小連携の動きに、かげりが見えていることを懸念。
A学びの連続性の観点から、小学校においても幼児教育との円滑な接続が必須である。
B地域における幼児教育の充実をはかるために、「幼児教育センター」等を全都道府県に設置することが有効ではないか。
今後も本会議にて、省庁を横断して検討を重ね、「3要領・指針」の次期改定に向けた議論を進めていく予定だ。