【今回の検討会のポイント】
・イングランド、フランス、ドイツ、韓国の非自発的入院制度を比較
・医師判断だけでなく、司法・行政・福祉専門職の関与が各国で制度化
・日本の医療保護入院、任意入院、家族等同意のあり方にも示唆
・精神科病院併設型の訪問看護の実践から、重症者の地域生活支援を検討
海外の非自発的入院制度をヒアリング
医療判断と権利擁護をどう両立するか
厚生労働省は令和8年3月30日、第13回「精神保健医療福祉の今後の施策推進に関する検討会」(座長:田辺国昭・東京大学大学院法学政治学研究科教授)を開催した。議題は、諸外国の精神保健福祉制度における入院医療による支援と、訪問看護事業に関するヒアリング。会議では、イングランド、フランス、ドイツ、韓国の非自発的入院制度の特徴が報告されるとともに、精神科病院併設型の訪問看護ステーションの実践が紹介された。
各国制度の比較からは、非自発的入院を医師の判断だけに委ねず、司法、行政、福祉専門職などが関与し、本人の権利擁護と治療の必要性を確認する構造が浮かび上がった。日本の医療保護入院や任意入院、家族等同意のあり方を考えるうえでも示唆が示された。
用語解説:非自発的入院制度
患者本人に「入院して治療を受ける」という明確な意思がない(または意思を示せない)状態において、精神保健福祉法に基づいて行われる精神科の入院形態のこと。
非自発的入院には、主に以下の3つの種類がある
・医療保護入院:精神保健指定医が必要と判断し、かつ家族等(配偶者、親権者、扶養義務者など)の同意がある場合に行われる入院
・措置入院:精神障害のために「自傷他害のおそれ」がある場合、都道府県知事や指定都市の長などの権限によって強制的に行われる
・応急入院:直ちに入院治療が必要であるものの、本人や家族等の同意を得る時間がない場合に行われる、72時間を上限とした緊急の入院
イングランド:AMHPが医療判断に社会的視点を加える
イングランドでは、非自発的入院の申請に認定精神保健専門職(AMHP)が大きな役割を果たしている。AMHPは、ソーシャルワーカー、看護師、作業療法士、心理士などが所定の教育を受け、地方自治体の承認を得て活動する専門職である。
報告では、AMHPが非自発的入院の「事実上の最終決定者」とされる点が強調された。医師が医学的要件を満たすと判断しても、AMHPが申請しなければ非自発的入院には至らない。医学的観点だけでなく、本人の生活状況や地域で暮らす可能性もふまえて判断する制度設計といえる。
フランス:「入院」ではなく「非同意精神科治療」として整理
フランスについては、「非同意精神科治療」という制度的枠組みが紹介された。本人の同意によらない精神科治療全体を対象とし、その中に完全入院、一時入院、在宅入院、外来などを含む治療プログラムが位置づけられている。
また、非同意治療に家族や市町村長の「同意」を求めるわけではない点も特徴である。本人以外の誰かが代わって同意するのではなく、司法審査や行政的な監督を組み合わせる構造となっている。
ドイツ:自由剥奪を伴う収容として司法関与を明確化
ドイツでは、非自発的な入院や施設入所を「自由剥奪を伴う収容」として広く捉えている。精神科医療だけでなく、障害者福祉や認知症ケアも含む概念であるため、統計把握には難しさがある一方、裁判所の関与が明確に位置づけられている。
民事入院は法的世話制度の中に位置づけられ、法的世話人の同意に加え、裁判所の許可が必要となる。公法上の入院では、精神障害による自傷または他害の危険が要件となり、州の責任で実施される。
韓国:保護義務者入院の見直しも議論
韓国では、非自発的入院として保護義務者入院、行政入院、応急入院などがある。日本の医療保護入院に類似する保護義務者入院では、保護義務者の申請と複数の精神科専門医による診断が必要とされる一方、家族等に責任が集中することや入退院審査の実効性が課題とされ、司法入院の導入なども議論されている。
委員からも今後の検討に意見
任意入院や家族同意のあり方が論点に
質疑では、各国制度をふまえ、日本の制度をどう見直すかが議論された。
○イングランドのAMHPについて、医療判断に社会的視点を加える仕組みとして、日本の家族等同意に代わる制度設計の参考になるのではないかとの指摘があった。
○日本の任意入院について、本人が同意している場合でも、退院制限などが生じ得ることをふまえ、一般医療の入院との関係を整理する必要があるとの意見が出された。
○医療保護入院については、自傷他害のおそれというリスクの観点と、本人の利益のための医療という観点をどのように整理するかが論点として示された。
○障害者権利条約の観点から、代理意思決定に依拠する制度構造を見直し、本人の法的能力の行使を支える仕組みを検討すべきとの意見も示された。
精神科訪問看護の実践も報告
重症者の地域生活をどう支えるか
後半では、秦野厚生病院・秦野厚生訪問看護ステーションから、精神科病院併設・精神科医療特化型の訪問看護の実践が報告された。同ステーションでは、統合失調症を中心に、クロザピンや持効性注射剤を使用している人、重症度の高い人も支援している。
支援内容は、症状観察、服薬支援、再発予防、家族支援、生活支援、危機介入など。病院併設型の強みとして、外来、デイケア、訪問看護が情報を共有し、主治医とも連携しやすい点が挙げられた。日中の濃厚な支援により状態変化を早期に把握し、夜間の危機を未然に防いでいるという。
一方、身体合併症への対応や、地域の救急医療機関との連携には課題が残る。精神疾患がある人が身体疾患を発症した際の受け入れ体制を含め、精神科医療機関と地域医療とのネットワークづくりが必要とされた。
今回の検討会では、入院制度の見直しと地域支援の充実を一体で考える必要性が示された。本人の権利を守りながら必要な医療につなげ、地域生活を継続的に支える体制をどう整えるかが、今後の精神保健医療福祉施策の重要な論点となる。