「これ以上負担を増やさない」という現場の実態
介護現場では、「これ以上業務を増やされたら現場がまわらない」、「このまま負担が増えれば離職者がでる」といった声が聞かれます。人員不足や利用者対応の複雑化、記録業務の増加などにより、現場の負担は大きくなっています。
そのため、業務改善や新たな取り組みを提案すると、「今以上に負担を増やすのか」、「現場の大変さを理解していない」と職員の不満につながることもあります。現場が限界に近い以上、その反応は当然ともいえます。
一方で、「これ以上負担を増やせない」という理由から、現在のやり方を維持し続けることにも大きなリスクがあります。
「今のやり方で何とか回っている」と認識している場合がありますが、このような場合、業務そのものの効率性ではなく、職員個人の努力や経験によって支えられていることが少なくありません。
例えば、リーダーや特定の職員が調整役となり、急な対応を暗黙のうちに引き受けている場合があります。また、業務手順が明文化されておらず、ベテランや中堅職員などの暗黙知で運営されている現場もあります。
こうした状態は、個人の経験や努力によって支えられている側面が強く、安定した運営とはいえません。職員の負担に依存した状況が続けば、疲弊感は徐々に蓄積していきます。そして、「もうこれ以上は難しい」という状態になった時、離職という形で表面化する可能性があります。
「今のままでいい」が生み出すさらなる負担
「同じ内容を複数の記録に転記している」、「申し送りが長時間化している」、「職員ごとに対応方法が異なる」、「誰に聞けばよいかわからない業務がある」といった状況は、介護現場では珍しくありません。
一つひとつは小さな負担でも、積み重なることで大きな負担となり、結果として現場全体を圧迫していきます。
とくに注意が必要なのは、現状維持が「負担を増やさない選択」ではなく、「将来的な負担増加を固定化する選択」になってしまう点です。
改善されない非効率な業務は、毎日繰り返されます。5分の無駄、10分の確認作業、重複した記録業務などは、積み重なることで膨大な時間になります。そして、その負担は少しずつ現場の疲弊につながっていきます。
また、属人化が進んだ現場では、一部の職員に業務が集中しやすくなります。「あの人しかわからない」、「結局ベテランが対応する」という状態が続けば、特定職員の負担はさらに増加します。そして、その職員が休職・退職した場合、現場全体が機能不全に陥る可能性もあります。
さらに、人員不足によって現場が忙しくなると、「忙しいから改善できない」という空気が生まれやすくなります。しかし、改善が行われないことで非効率な業務が残り続け、結果としてさらに忙しくなるという悪循環に陥ります。
この状態になると、問題点が見えていても改善されず、非効率な業務が固定化されていきます。そして、その積み重ねがさらなる負担増加を招き、最終的には職員の疲弊や離職につながります。
現状維持を続けるだけでは、将来的な負担増加を防ぐことはできません。だからこそ、「負担を増やさないための改善」を考えていく必要があります。
「負担を増やさない改善」という考え方
業務改善というと、「追加の仕事が発生する」というイメージを持たれやすいですが、本来の業務改善は、「業務のなかの非効率を整理すること」にあります。
例えば、記録様式を統一して転記作業を減らす、申し送り内容を整理して短時間化する、業務手順を標準化して確認作業を減らすなど、小さな改善であっても現場負担を軽減できるケースは多くあります。また、物品の置き場所や動線を見直すだけでも、職員の移動負担が軽減される場合があります。頻繁に使用する物品を近くへ配置する、保管場所を統一するなど、小さな工夫によって業務効率が改善することもあります。
情報共有方法の見直しも有効です。紙・口頭・個人メモなど情報管理が分散している場合、確認漏れや聞き直しが増えやすくなります。共有方法を整理することで、確認作業の削減につながる可能性があります。
最近では、ICT活用も有効な手段の一つになっています。介護記録ソフトや情報共有ツールを適切に活用することで、記録時間や確認作業を削減できる可能性があります。ただし、ICT導入自体が目的になると、かえって現場負担を増やすケースもあります。そのため、「何の業務を減らすのか」、「どの負担を軽減したいのか」を明確にしたうえで導入を進めることが重要です。
大切なのは、新たな負担を増やすことではなく、今ある負担を少しでも減らしていく視点です。
「できる方法を考える」組織づくり
管理者やリーダー層には、「できない理由」を並べるのではなく、「どうすればできるか」を考える姿勢が求められます。
人員不足のなかで、現場に余裕がないことも事実です。しかし、「忙しいから変えられない」と考え続けるだけでは、課題を先送りしていることになります。限られた人員のなかでも、現実的に取り組める改善を少しずつ進めていく視点が必要になります。
改善活動では、最初から大きな成果を求めすぎないことも重要です。介護現場では、一部職員や管理者が改善を抱え込み、「頑張る人だけがさらに負担を背負う」状態になりやすい傾向があります。しかし、この状態では改善活動そのものが継続できません。そのため、改善を組織全体で支えていく必要があります。
さらに、改善を継続するためには、管理者が現場へ関わり続けることも欠かせません。改善を一度指示して終わりにするのではなく、「負担は軽減されたか」、「無理が起きていないか」を確認・評価しながら進める必要があります。
介護事業において、離職防止は単に職員満足度の問題ではありません。人材不足が進むなかで、安定的なサービス提供を継続するためには、「働き続けられる現場」を構築することが経営上の重要課題となっています。
職員の離職は、人員不足だけではなく、採用・教育コスト増加にも直結します。さらに、中堅やベテラン職員の離職が続けば、サービスの質や利用者対応へ影響が生じ、稼働率低下など経営面へも直接影響します(表)。だからこそ、現場に負担を強いることを前提とした運営ではなく、持続可能な業務体制へ見直していく必要があります。
現場が厳しい状況だからこそ、「できない理由」を探すのではなく、「できる方法を考える」という視点を持ち続けることが、これからの介護事業の運営では欠かせません。
まずは、現場で取り組める小さな改善から始めることが重要です。
※ この記事は月刊誌「WAM」2026年7月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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